幼美つれづれ草 −第18回− 「99の大切なもの」
大学の講義で学生たちに紹介する詩があります。「でも、100はある」という、北イタリアのレッジョ・エミリア市で活躍した幼児教育者、ローリス・マラグッツィ(Loris Malaguzzi:1920-1994)が著した詩です。簡単に要旨を説明しますと、子どもには100の考え方や遊び方などがあるが、その99が学校や文化に奪われてしまう、という内容です。
私たち大人は、生まれた時が0であり、長い人生の中で様々な経験を重ねることで、その0が10となり、50となり、そして大人になった今が100であるという考え方をしてはいないでしょうか。
子どもは、生まれながらにして100あって、大人になるに従って、少しずつ、少しずつ、その大切な100あったものが奪われていき、最終的に、私たち大人には1しか残っていないのだと、マラグッツィは主張しています。
私たち大人は、子どもは、幼く、経験も浅いため、教えなければ何もできない小さな存在である、と認識している方も多いのではないでしょうか。
子どもたちは、豊かな存在です。感じる力、観察する力、想像する力、表現する力など、子どもたちは、私たち大人以上に素晴らしい力と可能性をもっています。それは、漢字が書けるとか、割り算ができるとか、学びや経験で得られる力ではなく、私たちが人間らしく、豊かに生きる上で必要な力です。
子どもが見ているもの、伝えたいこと、つぶやいている言葉、試みていること、躓いていることなど、子どもと同じ視点で寄り添ってみてください。そうすることが、子どもの感性を豊かにし、心を育てることにつながるとともに、私たちが大人に成長する間に失った、99の大切なものに気づく機会になるのではと考えています。
プロフィール
相馬 亮(そうま りょう)
1975年生まれ
尚絅学院大学 心理・教育学群 子ども学類 教授
東北幼年美術の会会長
日本美術家連盟会員
桜の聖母学院小学校にて図画工作専科を7年、その後、同学院中学・高等学校にて美術科専任を7年務め、現職10年目。大学では、保育者および小学校教員養成課程に従事。保・幼・小・中・高・大と全ての校種に携わっており、「ひとり造形・図工・美術連携」が自身の強み。
また、画家として鉛筆を主軸とした作品制作を行っており、「第64回モダンアート展」協会賞および損保ジャパン財団賞(2014年)、「第227回 LE SALON 2017」 Medailles de Bronze(2017年)、「ドローイングとは何か展」準大賞(2020年)、「第52回いわき市民美術展覧会」市長賞(2023年)等、精力的に作品研究に努めている。