幼美つれづれ草 −第17回− 追想と・・・これから ―私と幼年美術―
私が幼年美術で学び始めて30年以上になりました。
短大卒業後、保育園の5歳児4クラスの1クラスぼたん組の担任となりました。そこで初めての作品展。日々、取り組む我がクラスの子どもの共同作品は、5歳児らしく?意見を言い、時には口喧嘩をしながら工夫して何度も試して作っていました。偏って不安定な所があるもののタイムアップになってしまいました。しかし、自由な表現で楽しそうでした。絵画作品も自由で大人や他人が見てもすぐにわかりにくいことも多くありました。しかし、作者の子どもは、親や友達に絵の前で得意気に作った、描いた事を話していました。我がクラス部屋に来られた他クラスの保育者や保護者、子どもは、「エッ!ウーン・・・」受け入れられた様子がなく困惑した様子でした。他クラスは、見たまま、形が整った絵や作品が展示されていました。私の保育方法は良くないのか、同僚や他クラスの子どもの視線が冷たく感じられ落胆しました。学校で学んだこととは、「違うんだ!」と感じました。
学生時代は、保育内容6領域(1956年から1989年)の「絵画製作」を受講しました。
授業内容は、それほど覚えてはいませんでした。ただ子どもの絵は、「本物を書き留めていくのではない、幼児が思ってことを描くことが良い。そのための準備、環境を用意する事が先生の仕事だ」と初老の先生の講義でした。「そうなんだぁ」と学び保育現場に入り、幼児の思いを大切にした作品展であったのに・・・・。それ以後迷いながら保育する日々が続きました。
保育園で夏休みに開催される研究会の案内の中の「幼年美術の会夏季大学」研修会の後期1日研修に参加した。内容は、実技研修、実践発表と絵を見る会など多くの学びができました。その中で「絵を読む会」は,驚愕的な会場の空気!!!数枚のこどもの絵を前に「これは良い!」「これは良くない!」とバトルが始まりました。画用紙全面に太い筆で描かれた絵(何の絵か忘れた)そこに子どもがこのような思いで描いたとの指導者が話された後、「いいね!」という方、反対に「もっと何かを表せるような指導や方法が必要!」と両極端な意見に困惑した。その後、子どもの絵について何が良いのだろうと考え続けました。
地区の造形委員をきっかけに、前京都幼年美術の会長の故奥山淑子先生に「幼美の会でもう少し学んでは」とお誘いを受けました。以前参加した「幼年美術の会」であったのですぐに参加させていただきました。メンバーは幼稚園、保育園の園長、主任、現場の先生や画家でした。毎月の集まりには、自身が行った保育の子どもの絵や造形物を持ち寄り感想や材料用具を共有したりすることでした。誰がいつ何を持ち寄ると決まりはなく、保育した時の絵や造形物を持参し、子どもの絵からその保育のあり方を話題にして話し合いをする。私も何が良いか迷いついつ、子どもの作品や写真を持参し良いところを認めて頂き保育の糧にしていました。しかし、幼美のメンバーの中でも賛否両論に分かれる絵や保育の方法が話され戸惑うことが多々ありました。ナカナカ正解は見いだせませんでした。そこで度々、岡田清先生の絵の見方、保育について語られることがあり、学生時代のテキストが岡田清著「幼児の絵の見方」であった事を思い出し本棚から引っ張り出しました。
幼美の集まり時には絵を見る目を養う目的で、世界児童画展審査後の研修用の世界の子どもの絵を拝借し、絵から子どもの生活、文化、思いを読み、材料用具の多様さにも目を向けることができた。一人ずつ語る機会では、先輩先生方の深読みに感心させられました。
全国大会や各地区の研修会にも快く参加させて頂きました。その都度、子どもの絵について熱心に語られていました。幼年美術の会を通して、子どもの絵を読む機会を重ねてきました。
子どもの絵のみではなく多くの事を学ぶことができました。今は、美育文化協会「ポケット」から子どものステキな活動が詳細に見ることができ学び続行中です。
大学の図書館で「幼児の絵と教育」幼年美術論が目につきました。古めかしい図書であったが学生時のテキストの岡田清先生であり懐かしく手に取った。夏季大学の様子や幼年美術の発足等も述べられていた。そこで『私たちは絵によって子ども一人一人のいのちを活かす教育をしたいのです』の一文が印象的であった。保育園園長を退職した友人が「倉橋惣三」を読み返していると聞き、長年保育園の主任であった妹も「エミール」を読んでいると聞き私も再度、岡田ワールドに浸ってみようと思い始めました。
幼年美術の趣旨を勇退された先生から新たなスタッフの方に伝えつつ、ブラッシュアップしていこうと思っています。社会や子どもの生活や状況は変化しつつも子どもの表現・絵を見る心は、普遍であろうと思っています。
引用・参考文献
岡田清『幼児の絵と教育-幼年美術論』創元社 1977年(昭和52年)
岡田清『幼児の絵の見方』創元社 1967年(昭和42年)
プロフィール
北村 眞佐美(きたむら まさみ)
龍谷大学 短期大学部こども教育学科 非常勤講師
京都文教大学 こども教育学部 非常勤講師
京都幼年美術の会 スタッフ
アタッチメント協会
ベビー・キッズマッサージインストラクター
平安女学院短期大学保育科卒業後、京都市内私立保育園に38年間勤務。佛教大学教育学部・聖徳大学大学院児童研究科で学び直した。自身が観た子どもの素晴らしい姿や保育者としての楽しさ、やりがいを伝え、多くの学生、保育者が保育現場で活躍してほしいと願っています。