幼美つれづれ草 −第12回− 幼児の造形とSDGsについて考える
2002年、「持続可能な開発に関する世界首脳会議」でESDが提唱され、その後の2015年には国連サミットにおいて持続可能な開発目標(SDGs)が採択されました。こうした環境問題が提起されるなか、国土面積に占める森林面積約67%である我が国において、生活における「木」への関心が集まるようになっています。一方、保育においても幼児、そして保育者の感性を育み、親との対応も含めたコミュニケーション能力の向上のための造形教材の検討が必要とされるようになりました。その幼児の造形教材を検討する一例として、木を用いた「木育1)」による造形活動が少しずつ広がりをみせています。この「木育」を用いた造形教材を検討するなかで、環境に配慮したSDGsの目標、例えば4(質の高い教育をみんなに)、7(エネルギーをみんなに。そしてクリーンに)、11(住み続けられるまちづくりを)、12(つくる責任、つかう責任)、15(陸の豊かさも守ろう)について、「木育」による造形活動を通じて考える必要がでてきました。
そんなある時、研究を一緒に行っている先生から、SDGsに取り組んでいる幼稚園を紹介していただきました。「自分の未来を子どもたち自身で創り出す、生きていくための力を育成したい」と、2020年に「SDGs未来幼稚園」を宣言したのが恵水幼稚園2) (熊本市南区)です。この園では、家庭や給食から出た天ぷら油(廃油)を集め、その廃油から精製された高純度バイオディーゼル燃料(BDF)をスクールバスの運行に使用する取組みや、「ごみを見る万華鏡REF」といった再生プラスチックを使った万華鏡にごみを中に入れて遊ぶことにより、環境問題に関心を持つプロジェクトなど、様々なSDGsの取り組みを行っています。
この恵水幼稚園とオンラインによる木育ワークショップを展開している時に、鷲山恵真園長先生、鷲山聖美副園長先生から「木育バスをつくる」という驚きのお話があり、さっそく取材に伺いました。その木育バスは、園バスの内装を取っ払い、木で改修するという、型破りですがとても魅力的なバスです。このバスは、幼児の「木育」活動を支援するとともに、筆者が学生と行う「ワクワク木育キャラバン」の出張開催など、「木育」による造形活動の様々な可能性が考えられ、さらにはSDGsの未来について、幼児・保育者・学生と一緒に考えることができる機会となることは間違いないと思います。
「木育」バスを使って、今後どのような活動が展開できるか、また別の機会にご紹介できたらと思います。
1)「木育」とは、平成16年に北海道庁が発信した地域プロジェクトであり、木とのかかわりを通して、 自然の一部として多くの生命と共存しながら生きていることを実感し未来へつなげる取り組み。
プロフィール
矢野 真 (やの まこと)
京都女子大学 発達教育学部 児童学科 教授
一陽会会員
日本美術家連盟会員
東京藝大で7年間(1994~2001)の非常勤の後、星野学園(2001~2003)教諭、鎌倉女子大学(2003~2009)専任講師、准教授を経て現職。専門は、立体を中心に一陽展に出品(1994年 青麦賞、1998年 会友賞、2002年 損保ジャパン美術財団奨励賞、2015年 会員賞)。2004年 第23回損保ジャパン美術財団選抜奨励展・新作優秀賞、2015京展・市長賞。2012年 21世紀空間思考展(日本橋三越本店6階アートスクエア)<~2015年まで毎年出品>や、2021年 物語と星空(あべのハルカス近鉄本店アートギャラリー)、物語の一コマ(大雅堂、京都)など企画による個展・グループ展など多数の作品発表を行う。同時に、教員・保育者養成大学勤務の中、子どもの技法材料等の教材研究を行い、「木育」を中心とした幼児の造形活動を実践・研究している。
主な著作:『保育に役立つ0・1・2歳の手作りおもちゃ』単著(成美堂出版)、『DVDでわかる!乳幼児の造形』共著(サクラクレパス出版部)、『感性をひらいて保育力アップ!「表現」エクササイズ&なるほど基礎知識』共著(明治図書)、『シリーズ知のゆりかご 子どもの姿からはじめる領域・表現』共著(株みらい) 他。