幼美つれづれ草 −第15回− 真夏の素敵な時間


2023年8月5日の全国幼年美術で諸先生方とお会いできたことが大変うれしく、実技の分科会では画材そのものとの遊びで参加者の表情が緊張した顔から和らぎ緩やかになられるのが見て取れて目指す方向性を確信しました。浄土真宗の僧侶である私は子供たちと実践して見たいと思いお盆参りがおわったらやろうと決意しました。

先生の声掛けで集まった園児と卒園児、年長から小6までの24名と寺のサマースクールをお盆過ぎに開校しました。「日本の阿弥陀さんは見ての通り立っておられるね、外国の阿弥陀さんはまだ座っておられるんよ、何時になったら立たれるんやろうな、千年先かな、二千年先かな。」などと開校式を終えたら後は子供たちと遊べる最高の時間です。

日ごろから「遊び」を学びと捉え、子供たちの「おもしろい!」「やりたい!」「知りたい!」「試したい!」「友だちと一緒に楽しみたい!」という思いを「遊び」を通して育んでいくことが大切であると考えていましたので、さっそく(公財)美育文化協会出版『みんなであそぼ!クレヨンとゆびえのぐ』の中から遊んでみることにしました。

先ずは異年齢の4人掛けのグループになり、あまり抵抗感のない遊びからとブレイクタイムに選んだのが、変形デカルコマニー:大さじ一杯半の水に適量の好きな色を溶かし、毛糸や紐を浸し、二つ折りにした紙に好きな形に置いて糸引きデカルコマニーをしました。片方はそのまま残し、毛糸や紐の残った方は色がつくように引っ張ったりずらしたりして遊びはじめます。すぐにできるのはご承知の通りですが、早く乾いて2時間後には持って帰らせることが出来るのがいいです。

だいぶん気持ちがほぐれてきたようなので『クレヨンでおさんぽ』の始まり始まり、透明シートに線を描く。ほかの人の線と交わってもよい回数は3回までと衝突を避けるためにルールを簡単にしましたが、より楽しむためにはゲーム感覚でクリアできるかどうかスリリングな方が面白かったのかと反省。クレヨンを3本持ちで描く子がでてきて線の強さで他を圧倒しましたが、離れて全体を見るといいアクセントになっていて他からの批判はありません。机の下に椅子をしまい込むとさんぽコースが広がります。シートを持ち上げてみると光の加減か歓声が上がります。

集まって1時間足らずでいよいよ一番試してみたかった『クレヨン連画で物語』の実践に入ります。グループの4人には年齢差がありうまく受け入れることができるだろうか。自分を出すことができるだろうかと心配しながらの展開です。年長の女児が全く白い画用紙のままである。もう一人3年生の男児も何も描けていない状態でいる。丸でも何でも描いたらと少し時間を延ばしたが,結局年長の女児はそのまま白い紙で隣へ渡すことになった。ところが驚いたことに回ってきたお友達の絵にはクレヨンを持つ手が動き出したのである。2回目3回目と回り元の位置に戻った時には自分の画用紙を平然と受け入れている。最後に5分仕上げの時間を用意して完成です。

『クレヨンでおさんぽ』の完成シートを再び広げ、いいところを切り取り張っていくことで物語をつくることを告げると事件が勃発です。それぞれに楽しんではいたが一つの物語にはならず、シートを4つに切って自分のところを持って帰りたいと言い出したのである。次には最初何も描いていなかった女児に目をやると細かく破りだしている。滅茶苦茶になるかもしれないと近づいていくと、私の予想に反して嬉しそうにブドウやイチゴを半分に破りながら、一杯一杯ここに張り付けていくと満面の笑みである。どうしてよいか解らなかった先ほどとはまるで別人の顔である。完成させることが目的ではない。楽しく心を開いた表現遊びができたら,この子に楽しかったという思いが経験値として残ったらその方がいいのではないか。小学生の要望にも応えて好きなようにグループで相談して決めてくださいといつの間にかシートを切って持ち帰ることを許していました。

 

プロフィール

藤井 行夫(ふじい ゆきお)

大阪芸術大学芸術学部デザイン学科グラフィックデザイン専攻を卒業後、中央仏教学院で住職課程を学び現在では以下の要職を担っている。
中国幼年美術の会会長
公益財団法人広島県私立幼稚園連盟監事
学校法人三光学園理事長
学校法人河本学園理事長
浄土真宗本願寺派三光山正善寺住職

1953年生まれ

宮崎県出身、福山市在住