幼美つれづれ草 −第14回− やさしい想像力


もう10年以上前のこと。近所の公園で遊んでいた息子が木の影の形に気付き、影をトレースしていく。じっくりと丁寧に形をトレースしている間に太陽は動いていき、影とトレースさせた線がズレてしまう。このズレの原因に気付くのだろうか?時間と太陽の位置の関係とかそんなことまで想像できるのだろうか?なんてことを考えながら息子を見守っていました。そろそろ全部終わるかな?と眺めていると彼は私が予想もしなかったことを口にしました。

「この木、葉っぱ無いから葉っぱ描いといたろ」

 

 

 

 

 

 

 

そう言うと枝の影の先に葉っぱを描き始めました。
目の前にあるものだけではなく、今そこに無いもの、でもあったらいいなと思ったものを描くことで創り出す。イメージの中にあるものが表出されるとはこう言うことなのかと思わされました。。

Imaginationとcreativity。
そして今、目の前になくても「あったらいいな」「こうなったらいいな」と思うものを想像で補い創造していくことでより良い世界を作っていこうとする力。これを”やさしい想像力”と呼びたい。そしてこのやさしい想像力が今ここに無い新しい世界を作り出していく力になるのだろうし、他者を思いやることができる力にもなり得るのではないだろうか。
目の前にある現実や正しい知識や技術を教えることではなく、自分なりの表現ができるための手助けや環境を提供することが私にできることかもしれないし、それによってこのやさしい想像力が大切にされるのならそれを大切にしたい。と漠然と感じ、そして今も目の前の子どもたちに日々新しい刺激をもらい、随所でやさしい想像力に触れながら自分がここに関わる意味のようなものを考え続けています。

 

プロフィール

和泉 誠 (いずみ まこと)

こどもなーと 代表
株式会社なーと 代表取締役
社会福祉法人照治福祉会 理事
全国幼年美術の会 監事
一般社団法人ORIECC 代表理事

絵画教室を皮切りに保育施設を創設、「こどもなーと」7つの保育施設を運営。

アートが特別なものではなく、子どもたちの日常の延長上にあるものとして日常の保育とアートの関係性を探る。

乳幼児の表現について国内外でワークショップ、講演などを行う。